女神ヒナについては、第一章第2節(「メレ・ア・パークイ」より)でもご紹介しました。そこでは、ヒナはワーケア(Wakea)と夫婦関係を持っていますが、昔のハヴァイイでは、結婚についての道徳観が今とは違っていたのです。ワーケアとアカラナのほかに、四大神の一人であり男性性の象徴であるクー(Ku)も、ヒナの夫だと言い伝えられています。
さて、ヒナは、一緒に寝たマロによって身ごもります。マーウイを身ごもったとき、ヒナはまだ処女だったという伝承もあるのですが、いずれにせよ、マーウイの父親は神や人ではなく、マロです。イエス・キリストの例もあるように、生物学的な父親を持たない子供がたぐいまれな能力を持つというモチーフには、普遍性があるのかもしれません。
ハヴァイイ人にとって、リムはビタミン・ミネラル源として大切な食べ物でした。日本では、ハヴァイイ語の「リム」を海草の一種と誤解して紹介してあることがありますが、「リム」というのは、淡水、海水を問わず水中の植物全般を指すほか、陸上のコケ・地衣類なども含む意味の広い言葉です。昔のハヴァイイでは、性別によって仕事の役割分担が厳格に決まっており、リムの採集は女の大切な仕事でした。集めたリムは、洗って、よく香りが立つようにすりつぶし、塩をして、ほとんどの場合は生で食べられました。ポケ(poke)
に交ぜるのは、昔も今もよくある食べ方です。
ハヴァイイ人は、たいへん多くの種類の海草を食用としていました。リム・コフ(limu kohu)(和名カギケノリ)、リム・リーポア(limu lipoa)(和名スジヤハズ)などはよく知られており、今日でもたいへん好まれています。そのほか、よくポケに交ぜて食べる、「オゴ」という海草を聞いたことはありませんか? 「オゴ」というのは、実は日本語の「オゴノリ」から来た言葉で、ハヴァイイ語ではオゴのことを「マナウエア」(manauea)といいます(ただしマナウエアは、オゴノリと同属ではありますが、ハヴァイイの固有種です)。また、リム・カラ(limu
kala)(日本のヒジキの仲間)という海草は、女神ヒナと深い関係があるとされています。
フラに使われたリムとしては、2種類が記録に残っています。1つはリム・パーラハラハ(limu palaharaha)とかリム・パーパハパハ(limu
papahapaha)などと呼ばれる海草(島によって名前が違う。和名リボンアオサ)で、もう1つはリム・カラです。2つとも、レイにしてフラに使われました。また、リム・リーペエペエ(limu
lipe'epe'e)(ソゾ属の海草の一種)という海草は、フラの初心者には禁じられていました。なぜかというと、このリムは海の中の物陰や洞穴で育つので、もしこれを食べると、秘められたフラの奥義は極められないと考えられていたからです。
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