【 解 説 】 |
これはハヴァイイでは有名な物語の*チャントです。前半が島生みの神話、後半がタロと最初の人間の誕生の物語となっています。主役のワーケアは天なる父、パパは大地の母で、ハヴァイイ神話によく登場する重要なカップルです。「パパ」の方が女神なのでお間違えなきよう。
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チャントの唱え方
「ハーロア」は、リーダーと合唱に分かれて唱えます。 まず、リーダーが「オー、ワーケア……」と始めます。
「ハーナウ・オ・ハヴァイイ……」は全員で。各島の誕生は全員で、それ以外はリーダーだけが唱えます。
「……カホオラヴェ」も全員で唱えて、前半終わり。 後半の唱え方は、習っていないので分かりません……。 |
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このチャントによれば、ハヴァイイの島々はワーケアとパパの子供です。島の生まれる順序は、南東のハヴァイイ島から北西のニイハウ島へとなっています。その理由は、*ハヴァイイ人の祖先が南方のマルケサス諸島、ソシエテ諸島からやってきたとき、ハヴァイイの島々を発見した順序だと思われます。
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ハヴァイイ人の祖先
ハヴァイイ諸島は、大陸はもちろんのこと、ほかの太平洋のどの島からも隔たった、絶海の孤島(群)です。当然、最初は無人島だったと思われます。そこに初めてやって来たのがマルケサス諸島の人々で、およそ五~七世紀ごろのことと考えられています。その後、10~12世紀ごろ、ソシエテ諸島からも人々が移住してきました。(これらの時期については、考古学的調査が進むにつれて、今後さらに遡るかもしれません。)マルケサス諸島とソシエテ諸島は、両方ともハヴァイイ諸島の南東に位置します。
太平洋上の、ハヴァイイ諸島、ニュー・ジーランド、イースター島を結んだ三角形の区域は、その中にマルケサス諸島、ソシエテ諸島も入りたいへん広いのですが、言葉や文化に共通性が見られ、人種的にも近い人々が住んでいるので、全体をポリネシアと呼んでいます。 |
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ワーケアの浮気相手、*ホオホクカラニは星と夜空の女神です。このチャントでは語られていませんが、ホオホクカラニは実はワーケアとパパの娘です。別の伝承によれば、美しく成長した娘に欲情を感じたワーケアは、パパに悟られずに娘とことに及ぶにはどうすればいいか、お抱えの神官に相談しました。そして神官の入れ知恵で、ワーケアは夫婦が別々に寝なければならない夜のタブーを定め、その夜はパパが自分の寝所へ近づかないようにしたといいます。パパは、「これは神の思し召しだ」というワーケアの説明に納得し、何の疑いも持ちませんでした。ところが次の日の朝、ワーケアは寝過ごしてしまいました。ワーケアの挙動を不審に思ったパパは、娘を問いただし、ホオホクカラニは全てを母親に打ち明けました(なぜワーケアを問いたださずに、娘を問いただしたのか分かりませんが……。)。そうして、ワーケアの罪がパパに知れたというわけです。
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ホオホクカラニ
名前の意味
ホオ(ho'o ...起こす。原因となる。)、 ホク(元はホークー。 ...星。)、 カ(ka ...冠詞)、 ラニ(lani ...空。天。)
ホオホクカラニという名前は、星と夜空の神だということをそれ自体で示しているのですね。なお、ホオホクカラニは、ホオホークーカラニとか、ホオホクイカラニ(Ho'ohokuikalani)など、似たような名前のバリエーションで語られることもよくあります。
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古代ハヴァイイには、男女の分け隔てをする厳格なタブーがいろいろありましたが、それらもこの事件のときにワーケアが定めたと言われています。
ワーケアが定めたタブーの例としては、
・男女が同席してものを食べてはならない。
・女性はほとんどの種類の*バナナを食べてはならない
(一部の本に書いてあるように、「一切禁止」ではありませんでした。)。
・女性は豚肉、ココナツ、何種類かの魚を食べてはならない。
・男性用の食堂と、女性用の食堂を、それぞれ用意しなければならない。
・女性は男性用の食堂に入ってはならない。
・生理中の女性を隔離するための専用の建物を用意しなければならない。
これらのタブーは、1819年に廃止されるまで、ハヴァイイではしっかり守られました。
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タブーだったバナナ
古代ハヴァイイにバナナが何種類あったのかは分かっていませんが、数十種類くらいあったのではないかと言われています。そのうちで、女性が食べてもよかったのは文献によって1~3種類となっており、正確なことは分かりません。地方によって異なっていたのかもしれません。
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女性も食べて良かった「popo'ulu」 という品種です。 → |
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ワーケアとホオホクカラニは親子でありながら肉体関係を持ったわけですが、ハヴァイイ神話では、きょうだいが夫婦となった例はいくつかみられます。実際、古代のハヴァイイの支配者階級でも、近親者との結婚、特に兄弟姉妹間の結婚は、むしろ奨励されました。それは、古代社会にはよくあるように、高貴な血筋を守るためです。しかし、なぜか親子間の婚姻は絶対に避けられました。ワーケアとホオホクカラニの近親相姦は、父と娘の関係という非常にまれな例です。
チャントの後半は、タロは人類のお兄さんであると語っています。「ハーロア」の「ハー」は「息」、「ロア」は「長い」という意味で、そこから「長寿」を連想させます。また、「ハー」には「茎」という意味もあり、「ハーロア」はここでは男性の生殖器の象徴とも考えられます。ハーロアナカは死にましたが、タロとなって、弟とその子孫に自らの体を食べさせ、人類の繁栄に貢献するのです。ちなみに、「ナカ」とは、葉などが風にそよぐ動きを表す言葉です。
このチャントから、古代ハヴァイイ人にとって、タロがいかに重要であったかがよく分かります。今日の、すっかりアメリカ化されたハヴァイイでポイを食べることは、ハヴァイイ人にとって心の拠り所ですらあるようです。
なお、一行目にパパ・ハーナウモクと出てきますが、これは「パパ」が名前で「ハーナウモク」が姓(あるいはその逆)というわけではなく、本来「・」なしの、全体で一つの名前です。しかし、意味には切れ目があり、「パパ」が名前の根幹、それに「ハーナウ」(生む)、「モク」(島)という二語がついて、パパがどんな神かということを説明しているのです。ハヴァイイ神話では、このように、神のある特性を説明する語句が名前につながって、全体を一つの名前と捉えることがよくあります。一人の神でもいろいろな側面がありますから、そのそれぞれが名前になって、一人でいくつもの名前を持つことになります。パパに関しては、そういう説明的語句のついた名前の中で、もっとも代表的なものが「パパハーナウモク」なのです。しかし、このような長い名前を全部つなげて書くと、同じ神が別の名前で登場してきたときに分かりにくいので、この記事では名前の根幹の後に「・」を入れることにしました。
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