【 解 説 】 |
ハヴァイイの、主要四神による世界創造の神話はいくつかありますが、これは代表的なもので、オアフ島の伝説です。ほかのバリエーションも、細部は異なりますが、カーネが偉大な創造者であり、クーとロノはその協力者であること、カーネを中心とするこの三神が、カーネの姿に似せて土から人間の男を作り、その伴侶として女を作ったことなどは共通しています。
ここでご紹介したオアフ島の伝説では、カーネは赤土から人を作ったことになっていますが、これはハヴァイイ人の肌が赤みがかっているために考えられたことでしょう。
この物語の初めの方の、カーネがひょうたんから世界を作ったという部分については、独立の物語として語られることもよくあります。また、その場合、創造主をカーネではなく、天の父なるワーケアとする伝承もあります。
カーネ、クー、ロノと、ちょっと異質なカナロアは、ハヴァイイ神話の中で早い時代に現れたとされ、特に高い地位を占める偉大な神々です。その中でも、創造の神であるカーネが最高位の神と考えられます。ハヴァイイはポリネシアに属し、その神話はポリネシアのほかの地域の神話と多くの共通性があります。カーネ、カナロア、クー、ロノは、似たような名前でポリネシア各地で語られる重要な神です。しかし、このお話では、四大神の中で、大洋の神カナロアだけがなんだか情けなく感じられます。
カナロアは、もともとポリネシア全域で重視されてきた神で、例えばハヴァイイとの関わりが深いタヒチ周辺では、カナロアに当る神はタアロア(Ta'aroa)と呼ばれ、もっとも重要な神、万物創造の主ということになっています。それがハヴァイイでは、カナロアはカーネと混同されることもあり、比較的影が薄いばかりか、暗黒界の神、黒魔術の神ということになってしまいました。この創造神話の後日談として、人の創造に失敗したカナロアは、悔し紛れに、地上に有毒物質など人が死ぬあらゆる原因を作り、人を死して土に還るべき存在とした、ということも言われます。
四大神が人類を創造したという物語はほかにもいろいろあり、最初の人間の名前も、ここでご紹介した「カーネ・フリ・ホヌア」と「ケ・アカ・フリ・ラニ」のほか、たくさん伝わっています。その中に、こんな伝承もあります。
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神は、最初の人間として、土から *クムホヌア(Kumuhonua) を作りました。そして、クムホヌアの体の一部から *ラロホヌア(Lalohonua) を作り、妻として与えました。二人は、カーネの聖なる地で幸せに暮らしていました。けれどもある日、*海鳥 にそそのかされたラロホヌアが、カーネの聖なる果実を食べ、続いてクムホヌアもその果実を食べてしまいました。二人はその鳥の導きで、カーネの庭からジャングルへ出て行きました。そのとき、木々は二手に分かれて道を作りましたが、二人が通りすぎると元の位置に戻りました。そうして、カーネの聖なる地への帰り道は永遠に失われたのです。カーネの定めた掟に従わなかったラロホヌアは、気が狂い、海鳥にされてしまいました。また、クムホヌアには、死すべき運命が与えられました。
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クムホヌアの名前の意味
クム(kumu...始まり。)
※「クム・フラ」という言葉で知られるように、クムには「先生」という意味もあるほか、
「基礎」「原因」などの意味もあります。
ホヌア(honua...大地。) |
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ラロホヌアの名前の意味
ラロ(lalo...下。)
ホヌア(honua...大地。) |
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海 鳥
ラロホヌアをそそのかした海鳥の名前は諸説あり、それぞれ名前の意味も違っています。
姿はどうやらカツオドリだったらしいのですが、伝説上の怪鳥と考えた方がよさそうです。 |
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さて、クムホヌアの子孫は、地上で邪悪なことばかりしていました。天から見下ろした神は嫌気がさし、地上を燃やし尽くして、全部新しく作り直すことにしました。そうして神は、クムホヌアを作ったのと同じやり方で、もう一度人間を作りました。
神は彼を *ヴェラ・アヒ・ラニ・ヌイ(Wela-ahi-lani-nui) と名づけました。そして、妻として、ラロホヌアを作ったのと同様にして *オウェー(Owe) を作って与えました。
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ヴェラ・アヒ・ラニ・ヌイ の名前の意味
ヴェラ(wela...熱い。)
アヒ(ahi...火。燃やす。)
ラニ(lani...天。空。)
ヌイ(nui...偉大な。)
神が地上を燃やしたことを記念した名前のようです。 |
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オウェーの名前の意味
オウェー('owe...引き裂く音)
オウェーは、神がヴェラの体の一部を「引き裂いて」、それを元に作ったことを表した名前のようです。 |
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また、邪悪な人類を滅ぼすために神がやったのは洪水だという伝説もあり、それによると、 *ヌウ(Nu'u) という男が大きな船に乗って家族と共に難を逃れ、ハヴァイイ島のマウナ・ケア(ハヴァイイ諸島最高峰。標高四千二百五メートル。)の頂上についたということです。
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これらの伝説は、旧約聖書のいくつかのモチーフに非常によく似ています。
初めの方は、アダムとエヴァの楽園追放にそっくりです。(聖書では、エヴァをそそのかしたのは蛇ですが、ハヴァイイには古来蛇がいませんでした。)
二つに分かれた森が元に戻ったというところは、出エジプト記を連想させます。(聖書によれば、昔ユダヤ人はエジプトで奴隷にされ、苦役についていましたが、モーセに連れられてエジプトを脱出しました。そのとき、海が二手に分かれて、ユダヤ人のために道を作りましたが、追っ手が来たときに海は元に戻ったので、追っ手は海に飲み込まれたということです。)
邪悪な人類を滅ぼすために地上を燃やしたというのは、神の業火に焼かれたソドムとゴモラの町を思わせます。
また、洪水は、言わずと知れたノアの方舟伝説です。
もし、ハヴァイイ神話がもともとこれほど旧約聖書に似ていたのなら、全く不思議なことです。 ですから、これらの物語は後世の創作で、キリスト教宣教師がハヴァイイに接触してから、聖書の物語をハヴァイイ版に翻案したものだという可能性も考えられます。
しかし、民俗学者のベックウィズ(Beckwith)によれば、この類似性は、ハヴァイイにもともとあった物語が、キリスト教の影響を受けて脚色されたためだろうということです。
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